夏の終わりに。

散歩

いつかの駅で

国道からはずれて田舎道を走って行くと、線路沿いに木造の小さな駅がある。時代に置いて行かれたようなその駅は夕暮れ時のせいか、何処か懐かしいような胸がキュンとする感じがする。前に立ち寄った時には、震災を応援する風鈴がいくつも掛けられていた。その時も今日のように夏の終わりの、汗ばむほどの暑い風が吹いていた。その時間帯には駅にまだ駅員さんがいて、私が改札のところで中を覗き込んでいると『中を見るだけなら切符はいらないよ。』と声を掛けてくれた。涼しさを誘う風鈴の音を心地よく聞いていたら、駅員さんが風鈴の説明をしてくれた。私は話を聞いて、真面目に生きようと思った。今までがどれだけいい加減だったとは思わないけど、今の生活が当たり前だと考えていた自分が愚かに思えた。今の自分に何が出来るのか、これから先何をするべきなのかを、あの日の私はホームのベンチに座って考えていた。

手書きの文字

夏の終わりに近づくと思い出す。今も、震災の風鈴は鳴っているのだろうか。そんなことを考えながら遠くで起こった震災や戦争のことを思う。あの時よりも、今の自分は変わることが出来たのだろうか。時々思い出して出来ることを始めて、時々落ち込んで‥。だるい時間が流れる私は、無性に震災の風鈴が見たくなって駅に行ってみた。だが、駅には誰もいなかった。そして改札からホームをのぞいても、もうあの時の風鈴はなかった。私はベンチに座って、しばらく暮れていく夏の空を見ていた。ふとベンチの隅を見ると、新聞紙で作った箱の中に新聞広告の「手作りの鍋敷き」がいくつか入っていた。その箱に書かれた『使ってください。』の手書きの文字を見ていたら、いつかの駅員さんの優しさを思い出した。

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