アンジュさま

日記

白檀の香り

次男が就職活動を始めた頃の話。次男と環状線を車で走りながら、『こんなにビルがたくさんあって会社もたくさんあるのに、どうしてなかなか内定が貰えないんだろうね。一社くらい入れるところがあってもいいと思うんだけど。』そんなことを話しながら就職するのは大変なことだと感じたことがあった。暫くして次男から電話があった。『オイラは何かに取りつかれているのかもしれない、今日は最悪だった。定期と家の鍵を無くし、お金は返ってこない。お祓いでもしてもらおうかな。』そんな内容だった。改札で定期を無くしたことに気づき、定期につけていた家の鍵も無いのでマンションに入れないという。お金が返ってこないというのは、数日前に駅の改札でお金を落として家に帰れない人に1000円貸してあげたときの話。お金は帰って来ないかもしれないけどすごく可哀想に思えて貸してしまったと、その人は次男に名前と電話番号を聞いて後で返しますと言って別れたそうだ。せっかく良い行いをしたのに、悪いことが重なって自分だけが損をしている気がしたのだろう。結果としてその日は予備の鍵で中に入ることが出来たし、翌日の午後に鍵と定期は奇跡的に戻ってきた。いまだにお金は戻ってこないが、まぁ社会勉強代としては安くすんだと次男も言っていた。都会の一人暮らしは地方よりは危険が多く潜んでいたり、人に騙されたり孤独を感じることが多いのかも知れない。最悪だと電話があった日、『いいことをしたね、その人はとても助かったと思うよ。』と言うと暫くは怒っていたけど、『オイラもそう思う。でも、今度からは少し考えてから決める。』と言ってくれた。私が『神様はちゃんと見てる、それにお母さんはあなたの頑張っているのを知っている。』と言うと『分かった、ありがとう。』と次男は電話を切った。…学校ではあるべき姿を教え、子どもは理想的な人間像を心に描き成長する、そして正直者や心の優しい人ほど悩んだり躓いたりする。いいのか悪いのか、それを繰り返すうちに大人になる。正しいことだけを知っていても人を疑うことを知らなければ、振り込め詐欺や思わぬ犯罪に巻き込まれてしまう。いつの時代でも正直者が馬鹿を見るような社会であってはいけない、それはみんな分かっていること。世の中にはたくさんの正解と不正解が存在していて、正解が分かっていても結果として不正解を選んでしまうことがある。自分の家族のことや自分の子どものことしか考える余裕が無くて、自分たちが損をしないようにその日を過ごす人もいる。…アンジュさまに線香を立てて白檀の香りを嗅ぎながら、今日はそんな事を考えていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました